野菜用の洗剤を使うと、油が浮かぶのはどうしてですか?
「ホタテ貝殻の焼成粉末洗剤にトマトを漬けると水が黄色くなった。膜が張った。これは農薬ですか?油ですか?」
こんな問い合わせを何度かいただいたことがあります。
それは農薬ではありません、とお答えしています。お野菜そのものが油脂分を分泌しています。
キャベツやブロッコリーが水をはじくのも、ワックスがけをしていないリンゴがツヤツヤしているのも、分泌物に由来します。
これらの分泌物質は、化学合成農薬や化学肥料を、使った/使わない にかかわらず、生成・分泌されます。
分泌物のなかには、洗剤で洗うと油膜や白い膜に見えるものが存在します。
一部のホタテ貝殻粉末を原料にした洗剤には「農薬を洗い流す、その効果は洗浄液に油膜のようなものが張るので目視できます!」というような説明をしているものがありますが、その「油膜のようなもの」は植物由来の「あたりまえ」の成分だと思われます。
<まとめ>
野菜/果物自体が栽培方法に関わらず、植物自身を守るために油脂分やロウ状物質を分泌しています。
油分を落とす洗剤で野菜を洗った際に現れる油膜等は、自然由来のものである可能性が極めて高いです。
洗浄により付着した農薬も洗い落とせるかもしれませんが、農薬散布量から考えますと、それを目で見て確認することは難しいと考えられます。
ホタテ貝殻の焼成粉末洗剤等の広告で見られる「農薬を落とす」という文言やビジュアル表現は、表面付着の農薬も落とすかもしれませんが、常識的に考えれば植物由来の油脂分等が洗い流され、膜や発色をもたらしたものを、農薬と喧伝しているのではないかと思われます。
<トマトの場合>
例えば、ナス科のお野菜代表であるトマトの場合、果実の表面にある小さな毛から様々な物質を分泌しています。
トマトの果実や茎葉を触ると手に付着する、緑~黄色の少し粘ついた分泌液です。
家庭菜園などの経験があれば、「あれか!」と思っていただけるかもしれません。
トマト農家さんの手は、分泌物が黒緑色の厚い層となってこびりつき、「アク」や「ヤニ」と呼んでいます。これら分泌液は、粘着性があるため微小な害虫(ダニ等)を捕殺する役割もあります。
この分泌液のひとつにはアシル化グルコースがあります(※International Journal of Molecular Sciences 2012; 13: 17077)。
この物質はトマトの表面では黄色い色素に見えていますが、アルカリ性の石鹸で洗うと、反応を起こし、蛍光色の黄色に発色します。つまり、トマトはアルカリ性の強い洗剤(ホタテ貝殻の焼成粉末洗剤など)に漬ければ、洗浄水は黄色くなります。
ほかにもお野菜の分泌物の代表的な例として、ブロッコリーやキュウリ、カボチャ、リンゴなどは、ロウ状物質(ブルーム)を分泌し、花蕾や果実自身を保護しています。このブルームの成分は、珪酸、糖類、カルシウムなどです。そのため、しっかり洗い落とすと洗浄水には白っぽい膜が浮かんできます。
農薬は「薬効成分」と「溶剤・固形剤」によって作られています。
いろいろな農薬商品がありますが、薬効成分はその重量の3~100%、これを1,000~10,000倍程度に希釈して使用します。
「薬効成分」や「溶剤・固形剤」が油膜の正体になり得るのか考えてみます。1,000~10,000倍に希釈された農薬が散布されたとしても、お野菜に付着する量はわずかです。
さらに、すべての農薬が油脂分を持っているわけではありません。農薬を使用して栽培された野菜や果物を洗浄しても、油膜とはっきりと視認できるほど成分が付着している可能性は低いと考えられます。
また、一部の作物に農薬を散布する際に、展着剤(主に界面活性剤)を混合して使用します。農薬希釈液(水の性質)と植物表面(油・脂の性質)に親和性を持たせるためですが、これも濃度は非常に低いため、展着剤の油脂分が油膜をつくるとは考えにくいです。
農業で展着剤が使われてきた歴史は、農薬使用の歴史と同じくらい長いものです。水の性質を持つ農薬を、お野菜や果物に付着させることに腐心してきた、それほど、植物は表面に多くの脂質や油分を分泌しているのです。